静寂と奥行きと鋭い光


春雨の竹林に入られたことがあるだろうか。青い空気に眼球までも染まってしまって、水中を漂うマリモのようだ。はるかな頭上からときおり雨粒が落ちてくると、その青い空気の中で同じように青い葉が一瞬ひらめく。小阪美鈴氏の書作品は、それら竹林の、雨音を遠くに聞く静寂と、奥行きの果てしない空間と、そして鋭い光ぼうだ。
 作品「月光の冷え/遠ざかる父母の背も 治子」。
空の月から注がれてくるというより、凝視の目がみずから放っているような厳しい光だ。去っていく父母とそれを見送る少女(幼女)との距離は無限に遠い。二人の靴音はいぜん聞こえてはいるけれど、もう同じ世界のものではない。父母の立っている場所も少女の立っている場所も、氷の山の危うい頂のようである。
 「ふっくらとしたダルマが描ける、それもすばらしい事だと思います。でも今の私には無理なんです。こんな考えは未熟ゆえだと分ってはいるのですが、それでもいま私が本当に真剣になれるのは、身を切るようなイメージなんです」
 見るからに華奢(きゃしゃ)な人がそんな事を控えめに語るのは、怖い。
 自作詩の書もある。
 「女には自由と愛が宿るという愛の日々を女には自由と愛が宿るという愛の日々を女には自由と愛が・・・」
 永遠に、そして執ように続くルフランである。自由と愛と、それから焼けつくような情熱!
 去年の春に須磨で開いた初めての個展で、初日にいきなり屏風(びょうぶ)を買ってくれた人がいた。その屏風は二人の驚きをよそに、日を追って評判を高めていく。買った人は糸数まり子さん。三宮の画廊喫茶のオーナーである。たちまち次の展覧会へ゛女の約束゛が交わされ、そしてこのように実現した。

                                                山本忠勝記者
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