新鮮な精神世界 命が光る仮名心経 桜の満開が心を打つのは、木がそっくり発光体になるからではなかろうか。何十万何百万という花びらが、花びらというモノではなくなって光になる。豪華・幽玄な光になる。だとすれば小阪美鈴氏の書作品が心を打つのも、墨が墨でなくなって、微妙な発光体になるからではなかろうか。 額装の書「お花が笑った」は、童謡を題材にした作品だという。「お花が笑った お花が笑った お花が笑った・・・」とかわいいフレーズが額いっぱいに咲いている。黄色一色の菜の花畑か、一面紫のレンゲ畑か。文字がことごとくお花になって光っている。 屏風(びょうぶ)仕立ての「仮名心経」はさらにまぶしい世界である。 経の冒頭の「観自在菩薩・・・」を「くわんしさいほさつ・・・」と音記で始めるこの全文かな文字の「般若心経」は、混迷の現代に差し入れられた一つの新鮮な精神世界だ。私たちはこの威厳に満ちた仏典と、こんなに親しく向き合っっただろうか。・・・きやていきやていはらきやていはらそうきやてい。 「般若心経は空海も良寛もすばらしい書を残しています、でも後桜町天皇(江戸時代、女帝)が当時の変体仮名で書いておられる心経を見たときでした。突然ハラハラと涙が落ちて・・・。私も私の時代の字で心経の心に出合いたいと思いました」 この人はそう言いながら、もう目に涙をためている。文字の一つ一つが命である。命が光っているのである。 山本忠勝記者 |
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